花とみどりの北野線
嵐電 (らんでん) 北野線は、帷子ノ辻 (かたびらのつじ) 駅と終点 北野白梅町駅を結ぶ全長3.8 kmの短い路線。住宅街を走り、沿線後半は「御室仁和寺駅」「妙心寺駅」「龍安寺駅」「等持院駅」(現在の駅名は「等持院・立命館大学衣笠キャンパス前駅」と長い!) と名刹の最寄り駅が続く。
「常盤 (ときわ) 駅」から「等持院駅」までの各駅のホームには、四季を通じて様々な草花が植えられていて電車の待ち時間も楽しい。特に「鳴滝駅」から次の「宇多野駅」までの間には、線路の両側約200メートルにわたってソメイヨシノが70本程植栽され、春には 「桜のトンネル」 として親しまれている。
【桜のトンネル】
1925 (大正14) 年、京都電燈が北野駅 – 高雄口駅 (現・宇多野駅) 間を開業。翌1926 (大正15) 年3月には、高雄口駅 – 帷子ノ辻駅間が開通して嵐山本線と繋がった。これを祝して植樹された桜が、現在の 「桜のトンネル」 の始まり。因みにその後の1942 (昭和17) 年、路線は京福電気鉄道に譲渡されている。
3月下旬頃からソメイヨシノが開花し始めると、車窓からはピンクに色づいた桜を楽しめる。以前は期間限定で夜間のライトアップや「夜桜電車」を走らせて観光に一役買っていたが、2020 (令和2) 年度から桜メンテナンスのため中止。
桜が満開になる頃には 「桜のトンネル」 近くの踏切には人だかりができ、時々交通渋滞を引き起こしたりもしている。またすぐ近くの御室川のソメイヨシノも満開になるので、カメラやスマホを持った人達が、踏切付近のみならず私有地の駐車場に入り込んだりして静かな住宅街が一時騒々しくなる。
【宇多野駅の桜】
「桜のトンネル」もきれいだが、「宇多野駅」の線路脇に立つ3本の遅咲き桜 「関山」 は見逃せない。ソメイヨシノが散り始める頃、鮮やかな濃い桃色の花を、青空に向かうように咲かせている姿が妖艶にも見える。春から初夏にかけてはタンポポ、クローバー、アヤメなどがホーム脇に次々と咲いて季節の移り変わりが楽しめる。
また「宇多野駅」付近にはもともとカエデが自生していたようで、秋には紅葉も美しい。
【御室仁和寺駅の桜】
「御室仁和寺駅」 はまるで世界遺産 仁和寺の参道入り口。北側に二王門がどっしりと構えている。仁和寺は文学作品にも描かれているように遅咲きの 「御室桜」 が有名だが、実は 「御室仁和寺駅」 ホームにも 「御室桜」 が植えられている。
5月の連休後に訪れた時には、赤く可愛い実をいくつも付けていた。またカラーの一種? 白星海芋 (シラホシカイウ)や紫色のマーガレットがちょうど見頃で、乗降客の目を楽しませている。
【嵐電沿線協働緑化プロジェクトと京都・雨水の会】
北野線の駅が四季を通じて花や緑にあふれているのはどうして?
開業100周年となる2010 (平成22) 年を前に、嵐電は2006 (平成18) 年度より「嵐電ブラッシュアッププロジェクト」を立ち上げ、その取り組みのひとつが「花とみどりの北野線」事業だった。手始めに「御室仁和寺駅」ホームに御室桜や山吹の植栽、「龍安寺駅」では花壇の整備がされた。維持管理については、雨水タンクを設置して近隣住民のボランティアと協働で行われることに。
この嵐電の沿線緑化プロジェクトに賛同したのが 「NPO法人 京都・雨水の会」。「嵐電沿線 恊働緑化プロジェクト」を立ち上げ、京都府の「地域力再生プロジェクト支援事業交付金」を得て駅や沿線の緑化を促進。
また2020 (令和2) 年からは、立命館大学も加わって「嵐電沿線フジバカマプロジェクト」が始まった。これは京都府の絶滅寸前種に指定されている「フジバカマ」を、立命館大学の衣笠キャンパスで栽培して10月に北野線駅に展示する事業。
色々調べてみて、改めて自然を大切に思い次世代へと守り繋いで行こうとする人々の努力によって、豊かな緑そして自然を享受できていることを知った。
北野線は次の駅までの距離が近く、沿線から電車が通過するのを眺めながらゆっくり散歩できる。また無人駅なので、ぶらりと駅に入ってホームの花や周りの草花を見るのも楽しい。近隣の保育園や幼稚園の小さな子ども達が、ホームのベンチに腰掛けて、電車に向かって手を振る姿はなんとも愛らしい。
風そよぎ 線路のさくら ひらりひら 青きしとねに 舞い降り眠る (畦の花)
「桜のトンネル」 のソメイヨシノが散り急ぐ頃、近くを散歩していてふと見かけた光景。踏切近くの桜の木の下に一面に咲く紫のきれいな花。ムラサキハナナ?かとも思うが、「立ち入り禁止」なので確かめられない。観客のいなくなったステージで、密かに演じられるピンクと紫の一幕 …。静かな午後。
<参考資料>
・ 京福電気鉄道株式会社 HP
・『嵐電沿線協働緑化プロジェクト』 NPO法人 京都・雨水の会 HPより
・フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 ・「ニッポン旅マガジン」プレスマンユニオン