惜秋…そして冬の足音

総記

 2025年、猛暑・酷暑の夏長く、気がつけば秋も行く頃になってしまった。いつもより短かった秋に “さようなら"。

  声明の 里のあぜ道 曼珠沙華 久方の空 仰ぎ見るかな
  足止める 人は無くとも 彼岸花 蒼穹めがけ 花火放てる

 秋の彼岸頃になると、田畑のあぜ道にいっせいに咲き出す彼岸花。『法華経』では、四華のひとつで曼珠沙華と呼ばれる。天上の花という意味もあるが、日本ではなぜか少しばかり不吉な呼称が多い。私の故郷では、葬式花とか墓花とか呼ばれて、子どもの頃は怖いイメージのある花だった。
 大原のあぜ道には、真っ赤な曼珠沙華が群生し、周囲の緑の山々とのコントラストがとてもきれいだった。また、近所の街路樹の根元には、毎年白い曼珠沙華が咲く。府立植物園では、珍しい黄色の花にも出会えた。

 

  夕暮れの 茜に染まる 萩の宮
  秋津とぶ 山道辿り 観音堂

 近鉄奈良駅にほど近い「漢國(かんごう)神社」は、日本に初めて饅頭を伝えた林浄因 (りんじょういん) を祀るお社があることで知られる。参拝した頃は、境内に赤い萩の花が見事に咲き誇り、まさに「萩の神社」といった風情。


 風情と言えば、岡寺の如意輪観音を拝観した帰り道。長い坂道をゆっくりと散歩しながら下っていると、1匹 (頭) のトンボが、まるで道連れのように付かず離れず飛んでいる。辺りは田畑や林の山里。思わず “夕焼け小焼けの赤とんぼ〜♫" と懐かしい歌が口をついて出た。

 

  嵯峨富士を 錦に染めて 秋はゆく
  十日夜 待ちて刈田の 案山子かな

 11月も下旬。久しぶりに訪れた広沢池。その山容から「嵯峨富士」とも呼ばれる遍照寺山は、赤、黄、緑と様々な色を纏い、秋ならではの美しさ。風もなく、池の面にその姿をくっきりと映し出している。また酒米を育てている田では、北嵯峨の風物詩ともなりつつある案山子が、刈田にひっそりと立っていた。十日夜には、田の神様への感謝のお祭りがあるのかな?

 

  山路来て ふと足止める 花ダリア ゆれる桃色 もみじと競う

 子どもの頃。夏休みも終わりを迎えると、庭には赤やオレンジのダリアが次々と咲き始めてとてもきれいだった。しかし、最近はその姿を見ることが少なくなったような…。ところが、11月下旬、石清水八幡宮に参拝した折のこと。男山展望台の近くで「皇帝ダリア」がピンクの大ぶりな花をいくつも咲かせているのに出会った。紅葉した楓とピンクのダリアが並んで色を競っている様は、なんとも新鮮な驚き!
 皇帝ダリアは、茎が木質化して太くなり、草丈が5~6m程に成長することもあるので、「木立ダリア」とも呼ばれているようだ。私の知っているダリアは、せいぜい1mになるかならないかだが、展望台で見た皇帝ダリアは、2mほどはありそうだった。
 また、大和郡山の矢田寺に出かけた時のこと。「皇帝ダリア」を庭に植えている家を数軒見かけた。奈良県は、ダリアの球根生産量が日本一で、「馬見丘陵公園」のダリア園では、11月中旬から12月上旬にかけて皇帝ダリアが見頃を迎えるらしい。

  夕焼けに 山の端染まる 二上山 雄岳雌岳の 姿麗し

 近鉄橿原線に乗っていると、二上山がよく見える。折口信夫の『死者の書』を読んで以来、二上山の名は中将姫の物語とともに心に残っている。夕暮れ時の車窓。二上山の彼方に陽が沈み始め、赤い空に雄岳雌岳がくっきりとその姿を現した。なんとも幻想的で美しい光景だった。

  鈍色の 空から舞うは 初雪か
  陽だまりに 鹿微睡て 紅葉狩り

 12月4日、京都に初雪。朝、カーテンを開けると空から白いものがチラホラ!平年より1週間ほど早かったようだ。
 ”今年はまだ十分に紅葉を楽しんでいない!” とばかりに、その後の暖かな日を選んで、久しぶりに奈良へ。観光客も少しは減ったかなと思い、興福寺の「阿修羅」に再会。南円堂前の橘には、黄色の実がいっぱい。猿沢池近くでは、名残りの紅葉が陽光に映えて眩しい。ふと見れば、白壁の傍で、一頭の鹿が午後の陽射しを浴びてくつろいでいる。なんだか眠そうな目で … お昼寝かな?            (畦の花)