”お盆”とは?(2) 「盂蘭盆」それとも「盂蘭+盆」?
現在も 「盂蘭盆」 の語源 (原語) については様々な意見があり、決着はついていないらしい。そこで、まず、これまでに提唱されてきた六つの説を見てみよう。
①
伝統的な解釈として、サンスクリット語 “avalambana" が転訛した “ullambana" (ウッランバナ) の音訳。意味は「逆さまに吊るされること (倒懸)」。
長安の僧 玄応が唐の太宗皇帝の勅により撰した 『一切経音義』 (7世紀中頃に成立) による。ここには、「盂蘭盆は訛りで、正しくは “烏藍婆拏 (うらんばな)" と言い、その訳は「倒懸」である」と記されている。さらに「盂蘭盆を貯食の器と言うのは誤りである」とも。
② 玄応とほぼ同時代の唐の慧浄が著した 『盂蘭盆経』 の注釈書 『盂蘭盆経讃述』 の中に、「盂蘭盆は、すなわち成食の器なり。…盆内にありて仏に奉じ僧に施し、以って倒懸の苦を救う。故に盆というなり」とあり、「盆器」が起源。
③ 「救済」を意味するサンスクリット語 “ullumpana" (ウランパナ) が原語とする説。(高楠順次郎, 干潟龍祥 氏の説)
④ 古代イラン語の “artavān"(超自然力を宿した「死者の霊魂」の意と考えられる)が転訛した語。(阿 理生 氏の説)
⑤
イラン系ソグド人の「霊魂 (特に死者の)」を意味する言葉 “urvan" (ウルヴァン) が語源。(岩本 裕 氏の説)
岩本氏によれば、霊魂の祭祀と同時に収穫祭でもあった「ウルバン」という祭祀が、イラン系ソグド人の中国進出とともに中国に伝えられ,畑作農業地帯の収穫祭として中元と結合。さらに仏教徒が自恣 (じし) の日を中元に結びつけたことで、今に伝わる「盂蘭盆会」の原型が成立したという。
⑥
「自恣 (じし)」(サンスクリット語 “pravāraṇā" (プラヴァーラナ)、パーリ語 “pavāraṇā" (パヴァーラナ)) から転訛したとする説。
インドでは、仏教の出家修行者は雨季の3ヶ月間 (印度歴での四月十六日もしくは五月十六日からの3ヶ月間) を一ヶ所に籠り修行に励んだ。これを「安居 (あんご)」(雨安居、夏安居)と言い、その終わりを「過夏 (かげ)・解夏(げげ)」と呼んだ。その最終日が「自恣」で、安居を過ごした出家者全員が集まり、期間中に自らが規則に抵触した事項をお互いに懺悔しあう儀式。
「自恣」は出家修行者にとって一年で最も重要な日であるのみならず、在家信者にとっても重要な日であったという。それは「自恣」を迎えることで修行者は心身清浄となり、そうした修行者に衣食などの物を布施する功徳は最も大きいと考えられたからという。
ここまで調べてきてふと思った。学者・研究者の人達は、それぞれの関心や目的から「盂蘭盆」を捏ね回し過ぎているのではないかと。そうすればするほど、本来の我が国の「お盆」の姿とはかけ離れていくようで、違和感を禁じえない。日本には日本独自の「お盆」があり、インドや中国にも似たような風習があると考えればそれで良いのではと…。
<参考資料>
・ Web版 新纂浄土宗大辞典
・ 『お盆雑考』 宮坂 宥洪 著 「現代密教」 第32号
・ 『仏説盂蘭盆経』 ―自恣の僧供とその功徳 (仏教講説, VIVEKA)
・ 『「盂蘭盆」考』 赤松 孝章 著 (高松大学紀要 33 -11, 2000-02-25, 高松大学)