有為泡影 5
『三月見』… 「十五夜」「十三夜」そして「十日夜」
秋は空気が澄み空が高く見えるので、夜空の月が一際美しい。10月「中秋の名月」は、全国的によく知られ、「お月見」の宴もあちらこちらで催される。しかし、「三月見」と称される風習の存在はあまり話題にならない。

【十五夜と十三夜】
旧暦8月15日の「中秋の名月」(2025年は10月6日) を愛でる風習は、中国の宮廷行事が奈良から平安時代頃に取り入れられたもののようで、「十五夜」「芋名月」とも呼ばれる。
その後、日本では旧暦9月13日を「十三夜」(2025年は11月2日) と呼び、秋の収穫を感謝して行う「お月見」が登場。日本独自の「お月見」は、中秋の名月「前 (前) の月」に対して「後 (のち) の月」や「栗名月」とも称され、栗や枝豆がお供えされるようになった。満月になろうとする少し欠けた月は、日本人独特の美意識に適っていたのかもしれない。
十五夜と十三夜の月は「二夜の月」と言われ、どちらか一方の月しか見ないことを「片見月(かたみづき)」(または片月見)として、古くは縁起が悪いとされたようだ。あるいは、両方の月見ができたら縁起が良いとも。なんとも日本人らしい。
【十日夜 (とおかんや, とおかや)】

そして三つ目の月見が「十日夜」。北関東から東北地方にかけて、旧暦10月10日 (2025年は11月29日) に秋の「収穫祭」として行われるお月見。この日は稲刈りが終わって田の神様が山に帰る日とされて、お餅などを供えて次の年の豊穣を祈願し、「かかしあげ」「わら鉄砲」など様々な行事が催されると聞く。
西日本で行われる「亥 (い) の子」「玄猪 (げんちょ)」が、これに相当するようだ。ちなみに「亥の子」は「亥の月の最初の亥の日」のことで、旧暦では10月に当たるが、新暦になってからは11月最初の亥の日とされている。2025年は11月2日。京都では護王神社で毎年11月1日に斎行される平安朝古儀「亥子祭」が有名。
雲を出でて 我にともなふ 冬の月 風や身にしむ 雪やつめたき
しるべなき われをば闇に まよはせて いづくに月の すみわたるらむ
( 明恵上人 )
夜明け近くまで高山寺の樹間で修行をしていた明恵上人にとって、月はかけがえのない同行者だったのかもしれない。
時には漆黒の夜空に瞬く星々と、その広がりを移り行く月を眺めてみたいもの。