大原の”ちいさい秋”と服部神社
7月の初旬、大原の赤紫蘇畑を見に行こうと計画していたが、梅雨もそこそこにいきなりの猛暑続きで断念!そこで、混雑する紅葉シーズン前に久しぶりに大原を訪ねてみた。
今回は、まず大原勝林院町にある 「服部神社」 に参拝。


大原のバス停から呂川沿いの道を少し歩き、呂川茶屋さんの横の細い道を律川方面に向かう。田畑広がるのどかな景色を眺めながら静かな小径を歩いていくと、目印の 「田の神さま」 の前に出る。「お久しぶりです!」とご挨拶しながら「田の神さま」の顔をよくよく見れば、意外に厳しい表情。

「田の神さま」から民家の間を歩いていけば律川に行き当たり、左手の杜に 「服部神社」 が見える。まさにその時!目の前を1頭の蝶がふわふわと飛んで行く…なんと、アサギマダラ!!ふと足元の畔を見てみると、どうやらフジバカマが数本。大原ではフジバカマの育成にも取り組んでいるようなので、アサギマダラが飛来するのだろう。今年初めてのアサギマダラとの遭遇だったが、あまりに突然で写真も撮れず残念。
<服部神社>

律川に面して建つ 「服部神社」 は、勝林院町の鎮守社。御祭神は「服部大明神」で、地元では「はっとりさん」と親しまれているとのこと。「服部大明神」がどのような神様なのか不明だが、養蚕など機織り関係の神様か、あるいは大阪の服部天満宮のように「足の神様」かもしれない。
覆屋の内に小さなお社があり、覆屋の周囲には奉納された 「枡飾り」 が飾られている。よく見れば「米寿」の言葉が書かれている。

「賀寿」のひとつである88歳のお祝い「米寿」は、単に長寿というのみならず日本の米文化と深い関わりがあり、「米 (よね) の祝い」と呼ばれることもある。古くは、米寿の祝いには米寿を迎える人が客を招き、その寿福にあやかれるように米に因んだ枡や杵、斗掻 (とかき) などを贈る地方もあったようだ。「服部神社」の奉納額は、そうした風習の名残りとも考えられる。
「服部神社」 参拝後の目的地は 「勝林院」。久しぶりの「勝林院」は、拝観有料となって入り口に受付が設けられたため、以前より境内が狭くなったような印象がある。


三千院・宝泉院に訪れる人は多いが、「勝林院」の参拝者は今も少ない。声明の歴史ある古刹の「勝林院」で、心ゆくまで仏たちと向き合うことのできる時間はなんとも贅沢。以前は鐘楼より東側のお庭には立ち入ることができなかったが、現在は整備されて拝見できるようになっていた。もう10月なのに境内の森では法師ゼミがずっと鳴き、大原でも秋の訪れはゆっくりらしい。
三千院にも立ち寄ろうかと思ったが、国慶節で大挙して押し寄せてきた中国人観光客が次々と山門へと入っていくのを見て、今回は取り止め。

帰りは呂川に沿ってバス停へと向かうが、こちらの道は人通りも多い。途中でお土産のしば漬けを購入するために 「志ば久」さん に立ち寄る。大原名物「しば漬け」を売る店は多いが、私のご贔屓は「志ば久」のきざみ赤しば。
そしてもうひとつの楽しみが、「志ば久」さんの紫蘇畑近くに設えられている 「見晴し台」。残念ながら畑はきれいに耕されていたが、少しばかりの赤紫蘇が干されている。大原の赤紫蘇は古来からある原品種に最も近いもので、それを残すために各農園では毎年秋には種を採取する。今はそのための乾燥の時期のようだ。「見晴し台」からは、山々に囲まれた田畑広がる大原の里を望むことができる。赤い曼珠沙華が畔にきれいに咲きそろい、秋の風情を少しばかり感じさせてもらった。

呂川沿いの小径は、木立に覆われた日陰の道なので、ひんやりとして心地良い。所々に秋海棠 (シュウカイドウ) の花が、ちょっぴりうつむき加減にひっそりとピンクの花を咲かせている。秋海棠は乾燥が苦手で、湿り気のある場所でよく育つので、この場所は生育にピッタリなのだろう。三千院や寂光院、古知谷阿弥陀寺など大原の寺院ではよく見かける。
うつむきて せせらぎを聴く 秋海棠 (畦の花)
帰りのバス。車窓を風に揺れるピンクや白のコスモスが通り過ぎて行く。またいつか大原の里へ。