西寿寺の「丈六の弥陀」と「大涅槃図」と

京都・寺社

西寿寺 山門

鳴滝の周山街道沿いにある浄土宗のお寺「西寿寺(さいじゅじ)」では、彼岸の間 (3/18~3/24) 江戸時代初期に奉納された「大涅槃図」が公開されるということだったので訪れてみた。

周山街道から北へ坂道を7, 8分歩いて行かなければならない西寿寺は、いつ訪れてもとても静かなお寺。だが墓地のある高台まで上ると、京都市街が一望できて心休まる場所だ。春には桜がきれいなお寺で、もう早咲きの桜があちらこちらで開花していた。

本堂

 ふだんは非公開のお寺なので、まず庫裡の方で許可を得てから本堂に。初めて拝見する御本尊は、約3mもある阿弥陀如来坐像で「丈六の弥陀」とも呼ばれる。平安末期作と伝わる阿弥陀如来は、定朝様の寄木造りで蓮華坐に結跏趺坐して円光を背負い、腹前で上品上生の印を結んでいる。どっしりとしたふくよかな体つき、柔和な面差しは平安時代の作風を感じさせる。
 しかし、江戸時代初期の寛永4 (1628 )年に浄土宗の岱中良定上人を開山に念仏三昧道場として開かれた西寿寺に、平安時代の御本尊がある のはどうして?

それについては『泉谷山西寿寺伝記』に以下のように記されていたとのこと。

当寺中興の祖である第五世単誉愚故上人は、本堂建立と丈六仏の安置を発願 (それまでは現在の方丈を本堂とし、方丈仏を本尊としていた)。万治元年 (1658) 年、現在の滋賀県甲賀市甲南町にある新宮大明神の本地仏が朽損して修復困難であることを知った上人は、村中の檀家などに乞い願って移坐を計画。仏像の修復及び光背台座の新造を経て翌万治2年に成就した。

 2004年に阿弥陀如来坐像を調査された京都国立博物館の淺湫 毅氏の言によれば、製作年代が平安後期にさかのぼると想定される像の新たな「発見」は極めて少なく、西寿寺の本尊像は稀有な例とか。

 そして彼岸の時期のみ公開される「大涅槃図」は、「丈六の弥陀の向かって左手に掲げられていた。江戸時代初期に奉納されたという高さ約4m・幅約3.8mの「大涅槃図」は、色も鮮やかに釈迦入滅を悲しむ人々や生き物達を描いている。だがこの「大涅槃図」も、上部の表装の痛みが激しいために2006年より修復作業が行われ、2007年2月に修復が完了したという。

 後に調べてみると、西寿寺は以下のような貴重な文化財も所蔵していることがわかった。Web上で画像が公開されているものもあるが、実物を拝見できる機会があれば嬉しい。

墓苑の桜

 
「阿弥陀六地蔵十羅刹女像図」 絹本著色, 101.0X40.4cm
 阿弥陀如来が雲に乗り飛来し、六地蔵が虚空を浮遊。下方には十二単衣を着た十羅刹女が描かれている。右下には頭巾を被った老女が合掌して座っている。裏には「恵心僧都源信の姉安養尼が感得した場面を描いた」と付記されている。南山城の海住山寺に伝来したものを、寛永7 (1630) 年に開山 岱中良定上人が西寿寺にもたらした。

「当麻練供養図」 絹本著色, 139.0cm×118.7cm
 元和7 (1621) 年、奈良絵屋町の絵師 竹坊藤吉・藤三が製作。軸木中央部の内部が刳り抜かれ、岱中上人自筆の願文と50枚におよぶ六字名号が収められていた。西寿寺開創に力のあった北出嘉兵衛の母で尼僧の妙尊が、自らの衣を売り曼荼羅を作ることを発願して藤吉・藤三父子に依頼。当麻寺の境内や法儀の様子を写し取り作画された。(京都国立博物館寄託)

ウィンクする?龍

「木造阿弥陀如来坐像」 像高52.3cm
 寄木造で玉眼嵌入。頭髪は螺髪で肉髻珠。水晶製の白毫を有し、阿弥陀の定印を結んで結跏趺坐する。像内部の入念な荘厳などの特徴から、高貴な人物の念持仏といった然るべき目的のために製作された可能性が高い。製作年代は鎌倉時代前期から中期頃で、慶派仏師 (湛慶) によるのではと想定されている。(京都国立博物館寄託)

 ゆっくりと拝観をさせていただき本堂を出てふと見上げると、欄間の龍と目が合った!なんだか「また来いよ!」とウィンクされたみたいな不思議な感じで … これも “ご縁" かな?

鐘楼

 鐘楼に 猫まどろみて 涅槃像   (畦の花)

<参考資料>
・ 「文化財保存修復学会 地域スタッフからの情報[8] 」  2006.3
・ 「奈良地域関連資料画像データベース」   奈良女子大学学術情報センター
・  『京都西寿寺本尊の丈六阿弥陀如来坐像について:移坐の経緯と製作年代』 淺湫 毅 著 (學叢 第28号 / 京都国立博物館, 2006.5)
・  『木造阿弥陀如来坐像 (京都・西寿寺蔵)』 淺湫 毅 著 (學叢 第28号 / 京都国立博物館, 2006.5)
・  『湛慶様式の形成と展開をめぐる試論:湛慶周辺作例における造形的志向性への視座』 植村 拓哉 著  (佛教大学宗教文化ミュージアム研究紀要 / 佛教大学宗教文化ミュージアム 編 (8), 2011)