『ぼくと<ジョージ>』

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12歳の少年ベンの心の中には、幼年期からずっともう一人の少年<ジョージ>が住んでいた。ただそれを知っているのは、弟のハワードだけ。両親は離婚しており、父親はすでに再婚してベンの異母妹がいる。
英才教育をしている学校に通うベンが小学6年生になった夏休み、ベンが憧れている上級生のウィリアムが理科室でLSDを作るという事件が発生。この事件を巡る中で、ベンは統合失調症の疑いをかけられ、<ジョージ>との関係にも変化が訪れる。
原作は1970年刊行。作者は処女作『クローディアの秘密』以来、思春期の少年少女を描いた児童文学で人気を得ている。「普通」であることに生き辛さを感じる思春期独特の心模様を、<ジョージ>というもう一つの人格を登場させることで、見事に描いている。人は常に心の中に別の自分を抱えている。心の声と言ってもいいかもしれない。現実世界に生きる自分ともう一人の(あるいは複数の)自分との間の折り合いをつけながら、人は日々生きているのではないのだろうか。それは大人でも同様だと思う。

* 『ぼくと<ジョージ>』  E.L.カニグズバーグ作 松永ふみ子訳 岩波書店, 1989 (岩波少年文庫 2116)