桜, 咲初む

京あれこれ

 3月初旬。"伏見区淀水路の河津桜が見頃に" といったニュースがメディアで報じられ、いよいよ桜の季節が始まった。それから少し後のこと。偶然通りかかったJR山陰線丹波口駅近くの “光徳公園" で、思いがけず見事に咲いている「河津桜」に出会った。枝を大きく広げた早咲きの河津桜は、大ぶりなピンクの花をたくさん咲かせていた。紫がかったピンクの蕾も可愛らしく、これから満開を迎えそう。4月中旬頃には遅咲きの「鬱金桜」や「八重桜」も咲くらしく、街中の公園なのに緑豊かで羨ましい。
 <河津桜 カワヅザクラ>

 1955年、静岡県賀茂郡河津町の飯田勝美氏が、河津川沿いに芽吹く苗を偶然見つけて庭先に植えたのが原木。1974年、河津町に原木があることから 「カワヅザクラ」 と命名される。
  一重咲, 大輪で紫紅色の花, 樹形は傘状, 2月下旬頃より1ヶ月近く開花

 

  3月中旬から下旬にかけては雨の日が多く、気温もあまり上がらない日が続いた。そのためか標本木となる「ソメイヨシノ」の開花は昨年 (2023年) よりも遅く、桜の観光地は気を揉んでいたようだ。そんな人間の心配をよそに、華やかに晴々と咲く桜があった。


 3月下旬のこと。東映太秦映画村入り口前の南北の通り沿いに並ぶ桜が満開。昨年、4月になってからもよく咲いていたので「関山」かと思ったが、よく見れば一重咲きなのでどうやら「陽光 ヨウコウ」のようだ。「河津桜」とよく似た色合いだが、花はさらに大きくいくつも重なって少し垂れたように咲くので、遠目にはとてもきれいな濃桃色で青い空によく映える。


 <陽光 ヨウコウ>
 愛媛県東温市の高岡正明氏が、天城吉野に寒緋桜を交配して作出したもので、1981年に新品種として登録。
 

  一重咲, 直径4~5㎝ほどの大輪で紅紫色の花, 樹形は広卵状, 3月中旬から4月上旬にかけて開花

 

 「陽光桜」の開花を知った3月下旬の週末「明正寺桜」の様子を見がてら御室川沿いを散歩。新丸太町通に近い神田橋北の川沿いの「明正寺桜」は、すでに満開… いや、そろそろ散り始めていた。しかし、ほのかに漂う芳香は去年と変わらない。驚いたのは、アジア系の観光客で賑わっていたこと。去年はご近所の人達が散歩したり休憩したりと長閑な場所だったのに … 。今年はまるで観光客に占拠されたようだ。結婚式用の撮影?と思しきウェディングドレスを着た女性の姿もあり、なんだかゆっくり桜を愛でる気分にならなかった。

 <明正寺 ミョウショウジ>
  1965年、愛媛県新居浜市の明正寺で八木繁一氏により原木が発見され、「ミョウジョウジ」 と命名。寒桜とシナミザクラの雑種と推定される。釈迦入滅の3月15日頃に開花することから「ねはんザクラ」とも呼ばれる。

  一重咲, 中輪で淡紅色, 樹形は広卵状, 3月中旬頃に開花

 

 御室川沿いや嵐電「桜のトンネル」のソメイヨシノは、やっとチラホラ咲出したばかりで、まだまだ蕾が多い。そんな中、川沿いの菜の花畑は黄色に染まり、静かに春を謳歌。

   菜の花や ひかり集めて 蝶誘う   (畦の花)

 3月29日、京都では二条城にある標本木が開花。例年より3日遅い「開花宣言」となった。人間の思うようにはならないのが自然界。

<参考資料>
  ・ 『桜図鑑』  公益財団法人 日本花の会        ・ 河津桜まつり情報局  website