初めての「弘法市」

京都・寺社

 6月21日、予々訪れてみたいと思っていた東寺の「弘法市」に初めて行くことに。朝から雲の多い日だったが、強い陽射しもなく戸外で過ごすにはまずまずのお天気。東寺に着いたのは午前10時頃だが、朝5時頃から始まるという縁日は、すでに多くの人々で賑わいを見せていた。

《「弘法市」って?》
 ところで、そもそも「弘法市」はいつごろから始まったのだろう?

御影供 (みえく) ありき
 承和2 (835) 年旧暦3月21日 真言宗の開祖 空海 (弘法大師) が高野山にて入定。
 延喜10 (910) 年 東寺 灌頂 (かんじょう) 院にて弘法大師空海に報恩感謝する御影供法要が始まる。
 天福元 (1233) 年 仏師 康勝 (運慶の子) により弘法大師像が刻まれて御影堂に安置される。
 延応2 (1240) 年 御影堂においても御影供法要が行われるようになる。

御影供法要参詣から縁日「弘法さん」へ
 御影堂で御影供法要が行われ始めると、御影供 (みえく) に参詣すると大きな功徳があると言われるようになり、人々が盛んに東寺を訪れるようになった。そして参詣する人々のために「一銭一服」の茶屋も出るようになったという。これが「東寺縁日 ”弘法さん"」の始まりらしい。
 江戸時代になると植木屋や薬屋なども出店。また当初は年1回の開催だったものが、毎月21日に行われるようになった。因みに、江戸後期刊行の『都林泉名勝図会』(秋里籬島 著) には、茶屋、植木屋、薬屋の出店の周りに多くの町衆、武士、僧侶が老若男女関係なく集い賑わう東寺御影供の境内の様子が描かれている。

 現在「弘法市」は、毎月21日の朝5時頃から日没近くまで東寺の境内から参道付近で広く開かれている。東寺出店運営委員会によれば、出店数は約1200〜1300店、毎月約20万人が訪れるとのこと。
 ゆっくり見ているといくら時間があっても足りないくらいの出店数だったが、お祭りのように賑やかな雰囲気の中にも、信仰の心があちらこちらで確かに感じられた。小さなお堂のひとつひとつに丁寧に手を合わせる人、弘法大師像に向かってひたすらに真言を唱える人、そして賑わう境内を法要が済んで歩み行く僧侶の列にお辞儀する人 … このお寺にはまだ信仰が息づいている、そう思う。

鴨の親子とサギ

 弘法大師空海が唐の国師 恵果から授かった数多くの寺宝を納めていた「宝蔵」を取り囲む堀の蓮は、もう可憐な花を咲かせ始めていた。そしてまだ産まれて間がないのか、鴨の親子がゆったりと水辺で休んでいる。それを見守るようにじっと動かないサギ。賑わいの中の静寂。 南無大師遍照金剛

  蓮咲きて お大師偲ぶ 人の波   (畦の花)

<参考資料>
・ 『御影供と弘法市』 (教王護国寺 東寺 ホームページ)      ・ 「東寺弘法市」 (弘法市出店事務局 ホームページ)
・ 『都林泉名勝図会』 巻之壱 秋里籬島著 (国際日本文化研究センター 平安京都名所図会データベース)