相国寺承天閣美術館 (上京区今出川通烏丸東入)

京都・寺社

放生池

 相国寺にある承天閣 (じょうてんかく) 美術館では、現在『禅寺に伝わるものがたり』と題した企画展が開催中。I期は 『仏教説話と漢故事』 (3月11日〜5月7日)、II期は 『女性と仏教』 (5月28日〜7月16日)の内容。I期はスケジュールが合わず、II期を拝観。

 今出川通はいつものように賑やかだが、そこから相国寺総門に通じる北の道を歩いていくと次第に街中の喧騒が静まっていく。特別拝観期間中ではないせいか、境内を歩く人の姿もまばらで静かだ。勅使門前の放生池にはたくさんの蓮があり、もうあちらこちらで開花し始めている。それぞれの蓮には名札が付けられており、”蓮” 初心者には嬉しい。

承天閣美術館 玄関

 承天閣美術館 は、相国寺創建600年記念事業の一環として1984 (昭和59) 年に建てられた。社寺には「霊宝館」「宝物館」といった名称の建物は多いが、「美術館」と称されるのはあまり聞いたことがない。境内北奥の庫裏の東側に門があり、その門を入ると、庭園の中央の石畳の道が来訪者を美術館玄関へと導く。両側には、躑躅の低い生垣があり、楓や南天などがほど良い木陰を作るように植栽されていて苔も美しい。所々に置かれた石や一風変わった意匠の石灯籠が、良いアクセントになっていてお寺にいることを思わず忘れてしまう。

玄関前の西側には、「普陀落山の庭」 と題された枯山水庭園がある。こちらは蘇鉄と大きな石が印象的だ。

普陀落山の庭

<第1展示室>
 相国寺の境外塔頭「眞如寺」の前身である「正脈庵」を創庵した尼僧 無外如大 (むがいにょだい) が、今年生誕800年になることと、眞如寺が16世紀後半から宝鏡寺門跡 (人形の寺) の菩提所となったことから、今回は「尼門跡の文化」をテーマとして企画されている。構成は、眞如寺が所蔵する無外如大関連のものと、尼僧となった皇女達が残した墨書など。
 また金閣寺にある金森宗和作の茶室 “夕佳亭” の写しが常設されており、中のしつらえもその時々の企画に合わせてアレンジしてあるようだ。

十牛の庭
中庭の石庭

 第1展示室を出ると左手に明るい陽射しの中にモダンな石庭の中庭が見える。置かれた石塔は、元は金閣寺庭園にあった高麗時代の朝鮮で作られたものという。そして第2展示室へと通じる回廊前には、「十牛の庭」 が広がる。全面ガラス張りで開放感があり、樹々の緑を眺めながら少しばかりソファで休憩もできる。

<第2展示室>
 相国寺を始めその塔頭である鹿苑寺・慈照寺・瑞春院などが所蔵する女性が描かれた図像や屏風、そして皇后や女性達が寄進した寺宝で構成されている。曽我蕭白筆「西王母図」や鎌倉時代の「二十八部衆図」、江戸時代の「小野小町九相図」など興味深く拝見させていただいた。
 第2展示室には、伊藤若冲の水墨画「鹿苑寺大書院障壁画」(重要文化財) の一部 (「月夜芭蕉図床貼付」「葡萄小禽図床貼付」) が移設され常時観覧できる。帰り際に腰を下ろして、若冲の虫喰いのある葡萄の葉や芭蕉に少し隠れた丸い月を見てホッと一息するのも楽しい。

 男性中心の江戸時代において、ややもすれば政治の道具扱いされた女性達は、自分の人生をどう考えそして生きていたのか、展示物のその向こうにある “生の声" を聞いてみたいと思った。

<参考資料>
      ・  相国寺承天閣美術館 ホームページ         ・  庭園情報メディア《おにわさん》