『日本神話』

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 ギリシヤ神話、北欧神話、インド神話など世界各地にはそれぞれの民族の神話がある。では日本の神話はどうだろう?そう考えた時にまず想起するのが『古事記』・『日本書紀』。しかし、“記紀" は皇室の祖先神を中心とした政治的色彩が強く、純粋な神話と呼べるのだろうかとかねがね違和感を覚えていた。そんな折に手にしたのが、上田正昭氏の『日本神話』だ。同書では日本神話として “記紀" を取り上げつつ、その考察は古の記録の無い口誦や巫女の存在、さらには地方の風土記へと拡がりを見せる。
 内容は、I 神代史のなりたち Ⅱ 天つ神の世界 Ⅲ 国つ神群像 Ⅳ 神話の重層 の4章からなる。中でも Ⅳ 神話の重層 は、神代より人の代(すなわち神から王)への展開としての「天孫降臨」談や王位継承の大嘗祭を、アジア他地域との関わりに言及しつつ論を展開しており興味深い。また、“記紀" 成立の過程で切り捨てられていった地方の神に纏わる行事や伝説を、考古学や民俗学の領域から拾遺し考察しているのも面白い。

 これまで、“記紀" はどことなく胡散臭く感じられて好きにはなれなかったが、民俗学の視点からアプローチしてみるのもありかも。“記紀" に対する見方を修正してくれた一冊。


 *『日本神話』上田正昭著 岩波書店, 1970.4 (岩波新書 青版 748)