「拝まれてきた仏像」展で思う

総記

 昨年末のこと。広沢池近くの 佛教大学宗教文化ミュージアム を久しぶりに訪れる。企画展『拝まれてきた仏像―ふたたび拝まれる日をまつ―』(2023/10/28-12/9開催) の趣旨に関心があったので。

パンフレット表紙

 2024年は浄土宗にとって開宗850年にあたる節目の年。1207年の「承元の法難 (または建永の法難)」で宗祖 法然が配流となって以来、浄土宗も幾度かの盛衰を経てきた。そして現在、浄土宗のみならず広く宗教は大きな過渡期にあると思う。寺院が消滅 (法的には「宗教法人の解散」) することによって生じる尊像や什宝などの管理が、大きな問題になりつつあるという。この企画展では、そうした問題を宗教界だけでなく広く一般の人々にも問いかけている。

 展示は、① 現在「解散」手続きを進めている二寺院 (一雲寺, 良福寺)② 火災により本堂とともに本尊も焼失してしまった二寺院 (正行寺, 光林寺) の事例を中心に構成。
  兵庫県宍粟市山崎町の「一雲寺」は、住職逝去後に主に地元自治会の人々の手により維持管理されてきたが、地域の人口減少や住民の高齢化に伴い解散。本尊の阿弥陀三尊像と閻魔王像が浄土宗に移管。
 また岐阜県にある「良福寺」は、住職逝去後に無住。管理する人もなく建物が危険な状態にあったため、浄土宗岐阜教区の関係寺院により解散手続き開始。建物は解体され、仏像群は関係者が一時的に保管。
  岩手県北上市の「正行寺」は、2016年に火災で本堂が焼失。翌年には再建され、浄土宗より修復された本尊 阿弥陀如来立像、善導大師像、法然上人像が譲渡されて落慶法要が営まれた。
 一方奈良県吉野町に所在する「光林寺」は、2013年に本堂が全焼、仏像群も焼失。直後に再建が始まるのに併せて、安置する仏像についても検討。当寺は近世に浄土宗に改宗され、本尊は前身寺院を継いで薬師如来像であったという。再建時には、浄土宗より譲渡の阿弥陀如来立像をお内仏として祀り、新たに奈良県内の解散寺院から薬師如来像を含む仏像群を譲り受けた。

「拝まれてきた仏像」パンフレットより (p3-4) 分解され修復を待つ仏像の各部位や光背、蓮台などをつぶさに見ることは滅多にあることではなく「寄木造り」について細かに知る良い機会であった。また修復の過程で、三尊として祀られている仏像にも制作の時期に差があることが判明したり、浄土宗の宗旨とは結びつかない像が移管されることもあるなど宗教界の内部事情を知るにつけても、宗教そのもの、もっと言えば人間の信仰心の流動性のようなものを感じざるを得ない。

 文化財として価値を認められた仏像群は、公的に保護を受けることもできる。しかし観光寺院として賑わうわけでもない地域密着型の寺院の仏像や什宝は、寺院廃寺となれば不要の物となってしまう。昨今ではそうした仏像・仏具類がネットで販売され、新たに寺院を開く人に購入されるという話も耳にする。
 「お寺」と言えばすぐに連想するのは「お墓」だが、その墓自体に対する考え方も変わりつつある。それは人の埋葬そのものに関する考え方が、今大きく変化しようとしていることと深く関わっているのだろう。今回の展示を拝見しながら、宗教界のみならず私達自身が改めて「信仰」や「宗教」といったことと真面目に取り組まなければいけない時代になってきたのかもしれないと思った。

<参考資料>
 『拝まれてきた仏像 : ふたたび拝まれる日をまつ』 佛教大学宗教文化ミュージアム, 2023.10.28 (令和五年度企画展)